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大阪地方裁判所 昭和23年(行)107号 判決 1965年4月15日

原告 中島鉄三郎

原告 伊達寿一

右両名訴訟代理人弁護士 浜本恒哉

同 南利三

同 南逸郎

被告 大阪府知事 左藤義詮

右訴訟代理人弁護士 堀川嘉夫

右訴訟復代理人弁護士 上原洋允

主文

一、原告中島鉄三郎と被告との間で、別紙第一目録記載の土地について被告がした買収の時期を昭和二二年一二月二日とする買収処分を取り消す。

二、原告伊達寿一の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、原告中島鉄三郎と被告との間に生じたものは被告の負担とし、原告伊達寿一と被告との間に生じたものは同原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告中島の請求について

(一)  原告中島所有の第一土地について、地区農地委が第四回買収計画を定め、その後被告知事において、原告に買収令書を交付したとして、買収を原因とする農林省名義の所有権取得登記を了したことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、買収令書の交付がないとの同原告の主張について判断する。

≪証拠省略≫によると、地区農地委は昭和二三年八月二五日頃原告に対して第四回買収令書が発行されたので同月三一日までに地区農地委事務所に受領に来られたい旨を書面で通知したことが認められるが、同原告が受領のため地区農地委に出頭したと認められる証拠はない。かえって、文書の方式および趣旨ならびに弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲一五号証の二に弁論の全趣旨を総合すると、同原告は同年五月二二日にも他の所有農地についてさきに行われた第三回買収の買収令書を受領に来るよう通知を受け、翌日地区農地委に出頭したのに、係官から日本勧業銀行に対する対価受領の委任状に押印を求められ、これを拒否したため結局買収令書の交付を受けられなかった事実があり、本件第四回買収の場合も同様の結果になるものと予想して、地区農地委に出頭もしなかったことがうかがわれる。

他に同原告に対して本件買収令書を交付したことを認めるに足る証拠がないから、これが交付はなかったものとするほかはなく、第一土地の本件買収処分は、その余の点について判断するまでもなく、すでにこの点において違法があり、取消しを免れない。原告中島の請求は理由がある。(なお、本訴の場合のように買収による所有権取得登記がなされているときには買収令書の交付がなくても買収処分取消しの訴えが許されると解する。)

二、原告伊達の請求について

(一)  原告伊達所有の第二土地について、その主張する買収計画が定められ、買収を原因とする所有権取得登記がなされたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、同原告主張の違法原因について順次判断する。

1、買収令書の交付がないとの主張について

≪証拠省略≫を総合すると、第二の1の土地に対する第三回買収の買収令書は昭和二三年五月中旬頃に被告知事が地区農地委に送付して原告伊達に交付するよう依頼し、地区農地委はこれを堺市の同原告住所地の地区農地委員会に送付してその交付方を依頼する方針であったことは認められるが、地区農地委が右のとおり送付した事実を認めうる証拠はない。また、第二の2の土地に対する第四回買収の買収令書を買収期日当時に同原告に交付したと認められる証拠はない。

しかし、≪証拠省略≫を総合すると、同原告は本訴においてはじめは令書交付の事実を争わず、かえってこれを自白しておきながら、買収期日後一〇年余りを経た昭和三三年六月一四日付準備書面(第一号)においてこれを撤回し、その交付がなかったと主張するに至った。当時の被告ら(枚方市農業委員会および国)においてその事実を立証しようとしたが、適切な証拠を発見できなかったため、昭和三五年三月二日に被告知事において乙二三号証の二および三の買収令書を発行して同原告あてに配達証明郵便で発送し、その頃右令書が同原告に到達したことが認められる。

同原告は、このような買収令書の交付は適法な期間内のものではないから無効であると主張するが、買収令書が買収の時期よりのちに交付されたとしても、その効果を買収計画で予定されていた買収の時期に遡らせて発生させることは可能であり、これを禁じる規定もない。このような令書の交付も、そのために法律関係の安定を損い、買収処分の相手方に予期しない損害を与える等、その他これを違法とすべき特段の事情のない場合には、買収処分の取消原因とするに足りないと解すべきである。本件の場合、適法に買収処分がなされたとの前提で買収期日後間もなく売渡処分が行われたことは弁論の全趣旨から明らかなところであり、他方同原告は買収期日を昭和二二年一〇月二日および同年一二月二日とする買収令書が後日交付されることを予期して、買収計画の取消しおよび右計画が未確定であり、これに基因する各行政処分の執行力がないことの確認を求めて、右買収期日後数箇月の期間内に本訴を提起したものであることは記録上明白である。これらの事実に令書交付が遅滞した前認定のような事情を総合すると、たとえ右令書の交付が買収期日後一二年余りを経たのちに行われたとしても、これによって関係者間の法律関係をより安定させこそすれ、これを損うものではなく、同原告に予期しない損害を与えたとすることもできないのであって、他に右令書の交付を違法とすべき特段の事情を認めうる証拠もない。このような令書交付の遅延は買収処分の取消原因とするに足りないと認めるのが相当である。

2、自創法五条五号に関する主張について

自創法五条五号にいう「近く土地使用の目的を変更することを相当とする農地」であることは、買収処分取消訴訟においても原告において主張、立証の責任があるところ、第二土地およびその周囲の状況が原告伊達主張のとおりであるとしても、本件買収当時に右土地が近く土地使用の目的を変更することを相当とするものであったとは認められないから、同原告の右主張はそれ自体失当である。

3、面積相違、対価不法の主張について

土地台帳上の所在、地番、地目、面積を表示して行われた買収処分は、たとえ実面積が土地台帳上の面積と相違していたとしても、買収目的地の特定には欠けるところがない。面積相違の主張は結局において対価の不当を攻撃するものとも解せられるが、買収の対価については別に自創法一四条の訴えが認められている趣旨からみて、その額に違法の点があっても買収処分の効力には影響を及ぼさない。右主張はそれ自体失当である。

(三)  以上のとおりであり、第二の各土地が小作農地で、原告伊達が不在地主であったことは同原告において明らかに争わず自白したものとみなされるから、右土地を自創法三条一項一号の規定にもとづいて買収した本件買収処分は適法である。従ってその取消しを求める同原告の請求は理由がない。

三、そこで、原告中島の請求は正当として認容し、原告伊達の請求は失当として棄却することとして、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前田覚郎 裁判官 平田浩 白井皓喜)

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